『スキマの植物図鑑』

この季節になると、新入生に薦める図書というような企画を良く目にするが、なるほどと思えるような面白いものと、何だかつまらないものとがある。
個人的につまらないと感じるのは、紹介者の専門分野に特化しているもので、たとえば夏目漱石の専門家が漱石の入門書や伝記を紹介していたりするような場合なのだが、そういうものを見ると、かなりがっかりする。
役に立つには違いないのだけれども、役に立つ範囲が限定的過ぎるからである。新入生に対して、と謳うのであれば、そういう狭い範囲の知識ではなく、ものの考え方とか、視点とかを考えさせられるようなものを薦めるべきなのではないかと思う。
むろんここで漱石を上げたのはただの一例であって、源氏物語にしろ井原西鶴にしろ、専門分野についての知識を得るための書籍なら、各自が必要なものを必要な時に読めば良いのである。
執筆者が『自分の』専門分野の知識を与えるようなものは、悪いとは言えないけれども何とも興醒めである。

そんなことを書いたのは、娘の入学した高等学校の校長先生が薦めていた本がとても秀逸だったからである。

塚谷裕一『カラー版 スキマの植物図鑑』
カラー版 - スキマの植物図鑑 (中公新書)

件の校長先生、数学が専門で植物にはむしろ瞑いらしいのだけれども、都会の中で植物を発見する楽しさを味わうことを薦めていた。実に素敵な先生だと思う。

さて、「スキマの植物」というのは、アスファルトの割れ目やら屋根やらから生えている植物のことである。
すっかり忘れていたけれども、ひと昔前に「ど根性大根」なるものが話題になったことがあるが、実はかの大根が特別「ど根性」なわけではなく、スキマはむしろ、植物にとって生育しやすい環境であるらしい。だから、都会でも(だからこそ)多種多様な植物が見られるのである。

そんな「スキマ」の植物が、四季を追って紹介されている。何ということもない近所での買い物の際にでも、そんなスキマの植物を探しながら歩けば、楽しみが見つかるものである。
[ 2015/04/25 00:45 ] 本と言葉 図鑑 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

学参の記述

学習参考書たるもの、点数を取るための要領、割り切りは必要で、あまり物事の本質に踏み込むようなことを書いたら、売れないのに決まっている。
…にしても、最近目にしたある本の記述はあまりにもひどかった。
最近目にしたと言っても、出版されたのは1996年で、何でもこれまでに160万部も売れているものらしい。敢えて書名は書かないけれども、マドンナだか赤シャツだか、ずいぶん人気のある人の物したものである。

たとえばこんなことが書いてある。
「あまた」は「たくさん」と訳すけれども、それは「数が「余った」というのが語源」だからなのだと言う。
国語史の常識云々などという野暮なことを持ち出さないまでも、日本語話者なら違和感を覚えるような珍説…とはいえこれがロングセラーになっているのだから、違和感を感じない人も多いのだろうが…。
「あまた」の初出例を調べるほどの気力はないけれども、竹取物語の用例が容易に思い浮かぶから、その「語源」になった「余った」という語はそれ以前、もしかしたら奈良時代から存在していたのかもしれない。残念ながら万葉集にその語は見出せないようだが。

そのほかにも「やむごとなし」は「止む事無し」がなまってできたもので、やめるわけにはいかない重要ポストというのが語源だ、とか、「おこたる」は病原菌が怠けるという発想から生まれた意味だとか、どうにも腑に落ちない記述が目白押しである。
「ありく」に付けられている「主語が歩かないものの場合は「うろつく」と意訳します。「船のありく=船がうろつく」などです。」という説明も、正常な国語感覚を持っていたら到底出て来るはずがない。

全国の国語の先生よ、教師としての良心と矜持があるのであれば、こんなものを高校生に勧めることはやめたが良い。
[ 2015/04/21 00:12 ] 本と言葉 閑話 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

北品川駅

京急に乗っていると北品川駅の近くに引込線みたいなものが見える、あれは何だろう? と息子が言う。
僕はそこまで注視していないから『引込線みたいなもの』があること自体に気づいていなかったし、気づいたところで気にもしなかったろう。
が、北品川というのは普通列車しか止まらない2面2線の対面式ホームの小さな駅で、片側は民家、もう片側は第一京浜が迫っているような立地だから、周囲に引込線を引いて行くような場所があるようにも思われない。不思議と言えば不思議である。
それで、先日行ってみた。

上り線のホームから品川側を見ると、確かに引込線が…と思ったのだが、ポイントは外されていて、車両が引込線(?)の方に入って来ることは出来ないようになっている。レールもすっかり錆びついているから、長いこと使われていないものと見られる。

北品川

その、使われていない元・引込線(?)の先には、事業用車両が止まっていた。

北品川

資材運搬用の車両に、「京急蒲田駅付近連続立体交差事業」というプレートが付いているのに息子が気づいた。

北品川

蒲田での工事の際にここを拠点にしていた車輌が、工事完了とともに現役を引退し、それがそのまま残されている、ということなのかもしれない。なお、連続立体交差事業の完成は2012年のことである。

(SONY NEX-6 + E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS)

【追記】
件の事業用車両について京急ご案内センターに聞いたところ、丁寧にご教示いただいた。
これは「20トンモーターカー」と言って、京急蒲田駅付近連続立体化工事の際に高架橋の部材を運搬していたものだそうである。
今後の用途は検討中とのこと。
[ 2015/04/16 15:34 ] 旅・散策 京浜急行 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

住吉神社(江東区牡丹)

住吉神社(江東区牡丹)。

住吉神社

それほど古いわけではなさそうだけれども、ずいぶんと苔生した狛犬。

住吉神社 住吉神社
住吉神社 住吉神社
住吉神社 住吉神社
(SONY NEX-6 + Carl Zeiss Sonnar T* E24mm F1.8ZA & Planar T*50mm F1.4)
[ 2015/04/12 00:50 ] 狛犬 東京/江東 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

「活動」

オノマトペにはずいぶんと人気があって、それに関する研究は多数あるのだけれども、個人的にそれほど興味が沸かないので詳しくは判らない。
だから、これがどんなふうに考えられているのかはまったく知らないのだけれども、漱石の『こゝろ』を読み返していて眼に止まった事例をメモしておく。

私は東京の事を考へた。さうして漲る心臓の血潮の奥に、活動々々と打ちつゞける鼓動を聞いた。不思議にも其鼓動の音が、ある微妙な意識状態から、先生の力で強められてゐるやうに感じた。(二十三、新書版全集、P50)


退屈な田舎の生活の中で刺激的な東京を思って胸が高鳴るという場面で、心臓の鼓動を「活動」と形容すると同時に、「カツドウ、カツドウ」という擬音として聞き做しているものと思しい。
こういう事例に出会うと、オノマトペもなかなか面白いと感じないでものでもない。

成田山新勝寺

忙中有閑。
とりあえず1枚のみ。

成田山新勝寺
(SONY NEX-6 + E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS)
[ 2015/04/07 12:39 ] 狛犬 千葉 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△