附箋を剥がす(25)

叙述観点の転換の事例。

獅子文六『七時間半』(ちくま文庫)より。

その時、今出川有女子が、銀盆に氷塊入りのタンブラーと、ウイスキーを充たしたダブルのグラスをのせ、タンサンは手に持って、彼の側へやってきた。
「えらい、済まんなア……」
忽ち、彼は相好を崩して、盆を受けとると、ウイスキーを、タンブラーに注いだ。その間に、有女子は、タンサンの栓を抜いて、渡そうとするのを
「ちょっとお酌してや……」
と、図々しくも、タンブラーをさし出した。(P138)


「有女子は……」と始まった文が、「彼(=岸和田社長)」を主語とする「タンブラーをさし出した」に転換している。

やがて、有女子の体は、柩のように、列車ボーイが、二人がかりで、九号車の乗降口に、持ち運ばれるのを
「わ、わしに、任しとき……」
矢板喜一が、横から、出てきた。彼の両腕が、有女子の背と脚にかかると、羽根ブトンでも運ぶように、軽々と、歩き出した。その跡から、藤倉サヨ子が、慎ましい会葬者のように、首を垂れて、蹤いていった。(P350〜351)


「持ち運ばれる」のは「有女子の体」だけれども、それが、「矢板喜一が、横から、出てきた」という文になっている。

成子天神社(その3の下)

成子天神社(その3の上)」の続き。

成子天神社(新宿区西新宿)。

成子天神社

手前に移っている撫牛を見に行った…

成子天神社

…というわけではなく、お目当てはこれである。
文政13年(1830)の狛犬。

成子天神社 成子天神社

実に、素晴らしい。
工事中に廃棄されてしまってはいまいかと心配していたのだけれども、工事終了後、無事、復活していた。

成子天神社 成子天神社
成子天神社 成子天神社

1体のみだが、さらに古い、安永4年(1775)の狛犬。

成子天神社 成子天神社

(SONY NEX-6 + Carl Zeiss Sonnar T* E24mm F1.8ZA + Carl Zeiss Planar 50mm F1.4)
[ 2015/08/19 23:08 ] 狛犬 東京/新宿 | コメント(2) | TB(0) |  TOP△

成子天神社(その3の上)

成子天神社(新宿区西新宿)。

この神社、久しく工事をしていたのだが、工事が終わったことを知って訪れた…のは、梅の咲いている時分だった。それを、今頃になってアップする。

成子天神社

上の写真の右手前に写っている恵比寿神。

恵比寿神

恵比寿神だけでなく、他の6福神も揃っていた。何とも目出度い。

大黒天 毘沙門天 寿老人
福禄寿 弁財天 布袋尊

七福神は揃ったはずだが、まだいるのは…?

木花咲耶姫命

…と思ったら、木花咲耶姫命だった。

何故か、三柱鳥居に囲まれた井戸。

成子天神社 成子天神社

何だか神々しく見える。むろん気のせいだけれども。

で、何の工事をしていたのかというと…。

成子天神社

今回は、この完成したマンションを見に来た…てなわけはない。

(続く)

(SONY NEX-6 + E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS & Carl Zeiss Sonnar T* E24mm F1.8ZA)

校本『坊っちゃん』(1-3)

凡例

   おやじは 些 ともおれを可愛 がって呉れなかった。母
(岩)・・・・ ちっ・・・・・・・ ・・・く・・・・・・・
(偕)・・・・ ちっ・・・・・かあい・・・く・・・・・・・
(講)・・・・、ちっ・・・・・かわい・・・く・・・・・・・
(角)・・・・、ちっ・・・・・かわい・・・く・・・・・・・
(集)・・・・、ちっ・・・・・かわい・・・く・・・・・・・

   は兄許 り贔 負にして居た。此 兄はや に色が白くって、
(岩)・・ばか・ひいき・・・い・・この・・・ ・・・・・・・・
(偕)・・ばか・ひいき・・・い・・この・・・ ・・・・・・・・
(講)・・ばか・ひいき・・・い・・[ナシ]
(角)・・ばか・ひいき・・・い・・この・・・け・・・・・・・・
(集)・・ばか・ひいき・・・い・・この・・・け・・・・・・・・

   芝居 の真似をして女形にな   るのが好きだった。おれを
(岩)・・ ・・・・・・・・・・   ・・・・・・・・・・・・
(偕)・・ ・まね・・・・・・・   ・・・・・・・・・・・・
(講)[ナシ]                     ・・・
(角)・・で      ・・を演じ  ・・・・・・・・・・・・
(集)歌舞伎・     ・・のまねをす・・・・・・・・・・・・

   見る度 に  こいつは どうせ碌 なものにはならない  と、お
(岩)・・・ ・  ・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・  ・・・
(偕)・・たび・  ・・・・ ・・・ろく・・・・・・・・・  ・・・
(講)・・たび・、「・・・・、・・・ろく・・・・・・・・・。」・・・
(角)・・たび・、「・・・・、・・・ろく・・・・・・・・・」 ・・・
(集)・・たび・ 「・・・・、・・・ろく・・・・・・・・・」 ・・・

   やじが云った。 乱 暴 で乱 暴 で 行く先 が案 じられる    と 母
(岩)・・・い・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・・ ・・ ・・・・    ・ ・
(偕)・・・い・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・・ ・・ ・・・・    ・ ・
(講)・・・い・・・「らんぼう・らんぼう・、ゆ・さき・あん・・・・。」  と、・
(角)・・・い・・・「らんぼう・らんぼう・、いったいどうなってしまうのか」・、・
(集)・・・い・・・「・ ・ ・・ ・ ・、・・・ ・・ ・・・・」   ・、・

   が云った。成程   碌 なものにはなら  ない。御覧 の通 りの
(岩)・い・・・なるほど ・ ・・・・・・・  ・・・ごらん・・ ・・
(偕)・い・・・なるほど ろく・・・・・・・  ・・・ごらん・とお・・
(講)・い・・・なるほど、ろく・・・・・・・  ・・・ごらん・とお・・
(角)・い・・・たしかに ろく・・・・・・ってい・・・見て ・とお・
(集)・い・・・なるほど ろく・・・・・・ってい・・・ごらん・とお・

   始末 である。行く先が案じられたのも無理はない。只
(岩)・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただ
(偕)・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ただ
(講)しまつ・・・・[ナシ]
(角)   ・・・・将来を心配さ ・・・・むり・・・・ただ
(集)   ・・・・・・・・・・・・・・・むり・・・・ただ

   懲役 に行かないで生きて居る許 りである。
(岩)・・ ・・・・・・・・・い・ばか・・・・・
(偕)・・ ・・・・・・・・・・・ばか・・・・・
(講)[ナシ]
(角)刑務所・・・・・・・・・い・ばか・・・・・
(集)刑務所・・・・・・・・・い・ばか・・・・・

   母が病気で死ぬ二 三日前    台所で宙  返 りをして        へっつ
(岩)・・・・・・・・、・・・    ・・・・  ・ ・・・・        ・・・
(偕)・・・・・・・・ ・・・、   ・・・・  ・ ・・・・、       ・・・
(講)・・・・・・・・、・・・、   ・・・ちゅうがえ・・・・、       ・・・
(角)・・・・・・・・、・・・に   ・・・・  ・ ・・・たら、      かま
(集)・・・・・・・・、・・・、おれは・・・ちゅうがえ・・・・、まんなかにあるかま

   いの角 で肋  骨 を撲って 大  に痛 かった。母が大 層 怒 って、
(岩)・・・ ・・  ・ ・う・・ ・い ・・ ・・・・・・たいそう・ ・・・
(偕)・・・ ・あばら・ ・打・・ ・い ・・ ・・・・・・たいそうおこ・・・
(講)・・かど・あばらぼね・う・・、おおい・いた・・・・・・たいそうおこ・・・
(角)ど・・ ・・  ・ ・打・・ とても ・ ・・・・・・    おこ・・・
(集)ど・・ ・・  ・ ・打・・、とても ・ ・・・・・・ひどく おこ・・・

    御前 のようなものの顔は 見たく ない  と云うから、親類  へ
(岩) おまえ・・・・・・・・・ ・・・ ・・  ・い・・・・・・  ・
(偕) おまえ・・・・・・・・・ ・・・ ・・  ・い・・・・・・  ・
(講)「おまえ・・・・・・・・・ ・・・ ・・。」・い・・・・・・  ・
(角)「おまえ・・・・者 ・・・ ・・・ ・・」 ・言・・・・・戚の所・
(集)「おまえ・・・・・・・・・、・・・も・・」 ・い・・・・・戚の家・

   泊 りに行って居た。すると とうとう死んだと云う報知
(岩)・ ・・・・・い・・・・・ ・・・・・・・・い・・・
(偕)・ま・・・・・い・・・・・ ・・・・・・・・い・ ・らせ
(講)とま・・い・・い・・・・・、・・・・・・・・い・ ・らせ
(角)・ま・・い・・い・・・・・、・・・・・・・・い・ ・らせ
(集)・ま・・・・・い・・・・・、・・・・・・・・い・ しらせ

   が来た。そ  う早く死ぬとは思わなかった。 そんな大病
(岩)・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
(偕)・き・・・  ・・・・・・・・・・・・・・(・・・・・
(講)・き・・・  ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
(角)・・・・・んなに・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
(集)・き・・・  ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・

   なら、もう少 し大人 しくすればよかった  と思って 帰っ
(岩)・・・・・・ ・おとな・・・・・・・・・  ・・・・ ・・
(偕)・・・・・・ ・おとな・・・・・・・・・  ・・・・ ・・
(講)・・・・・すこ・おとな・・・・・・・・・。)・・・・、・・
(角)・・・・・・ ・おとな・・・・・・・・・  ・・・・ ・・
(集)・・・・・・ ・おとな・・・・・・・・・  ・・・・ ・・

   て来た。そうしたら 例の        兄が  おれを 親不孝だ、おれ の
(岩)・・・・・・・・・ ・・        ・・  ・・・ ・・・・・・・ ・
(偕)・き・・・・・・・ ・・        ・・  ・・・ ・・・・・・・ ・
(講)・き・・・・・・・、・・        ・・  ・・・「・・・・・・まえ・
(角)・き・・・・・・・ ・・        ・・、    「・・・・・・まえ・
(集)・・・・・・・・・、・・女形のまねをする・・、    「・・・・・・まえ・

   為めに、おっかさんが早く死んだんだ  と云った。口惜
(岩)た・・・・・・・・・・・・・・・・  ・い・・・・・
(偕)た・・・・・・・・・・・・・・・・  ・い・・・くや
(講)た・・、・・・・・・・・・・・・・。」・い・・・くや
(角)た・・・・・母・・・・・・・・・・」 ・言・・・くや
(集)た・・・・・・・・・・・・・・・・」 ・い・・・くや

   しかったから、兄の横っ面 を張っ   て 大 変 叱 られた。
(岩)・・・・・・・・・・・・ ・・・   ・ ・ ・ ・ ・・・・
(偕)・・・・・・・・・・・・ ・・・   ・ たいへんしか・・・・
(講)・・・・・・・・・・・つら・は・   ・、たいへんしか・・・・
(角)・・・・・・・・・・・・ ・ひっぱたい・、・・・・しか・・・・
(集)・・・・・・・・・ほっぺた・ひっぱたい・ たいへんしか・・・・

「断片語・日本語は最後まで読まなければ判らない…?」の補足

断片語・日本語は最後まで読まなければ判らない…?」の補足。
先のエントリが「断片語」というには長かったことの言い訳でもある。

ある人が、

「私は窓ガラスを割りました」

と言ったとする。この文の中の重要な事項は、述語たる「割りました」だと言えるだろうか。

実際の言語の運用の上で、上記の会話文だけが独立して存在するということは殆んどない。
大抵の場合、次のような質問の答えだと考えて良いだろう。

Q1:「あなたは何をしたんですか?」
Q2:「あなたは何を割ったんですか?」
Q3:「あなたは窓ガラスをどうしたんですか?」

Q3に対する「私は窓ガラスを割りました」という答えの中で、「割りました」が重要なのは間違いない。
が、Q2に対する答えなら、「窓ガラスを」が重要である。Q1の場合は難しいところだが、「割りました」が重要なのには違いないとしても、「窓ガラスを」も同程度に重要だといえるだろう。
つまり、答えがまったく同じ文だとしても、どの要素が重要なのかは一概には言えないのである。
なお、「誰が窓ガラスを割ったんですか?」に対する「私が窓ガラスを割りました」なら、当然、「私が」が重要である。
つまり、日本語は述語が最後に来る、というのは事実だとしても、だから日本語は重要なことは最後まで判らない、というのは違うのである。
文の途中まででも、後に来るべき述語は多くの場合予測できる、という研究があり、それはそれで意味なしとはしないけれども、そもそものところとしては、文の中で述語が最も重要だ、という固定観念が、間違っていると思うのである。
そしてその固定観念は、一文の中での諸要素間の関係だけを考えるところから来ているのであって、もっと広く文脈・場面の中で捉えないといけない…という大きな話の、ごく一部の断片である。

子易神社(板橋区板橋)

久しぶりの狛犬。これまた、一体何時行ったんだったか。

子易神社(板橋区板橋)。

子易神社 子易神社

子易神社 子易神社
子易神社 子易神社
子易神社 子易神社

(SONY NEX-6 + E PZ 16-50mm F3.5-5.6 OSS & Planar T*50mm F1.4)
[ 2015/08/10 22:44 ] 狛犬 東京/板橋 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

校本『坊っちゃん』(1-2)

凡例

      庭を東へ二十歩に行き尽 すと  、南上がりに         聊  か許 り
(岩)   ・・・・・・・・・・・ ・・  ・・・・・・         いささ・ばか・
(偕)   ・・・・・・・・ゆきつく・・  ・・・・・・         いささ・ばか・
(講)   ・・・・・・・・い・つく・・  ・・あが・・、        いささ・ばか・
(角)うちの・・・・・・・ ・って      ・を見ると、        小さ
(集)うちの・・・・・・・ ・って行き止まり・・を向くと、少し高いところに小さ

   の菜園  があって、真 中 に 栗 の木が一本立って居る。是 
(岩)・・・  ・・・・・・ ・ ・ ・ ・・・・・・・・い・・これ
(偕)・・・  ・・・・・まんなか・ ・ ・・・・・・・・い・・・・
(講)・やさい畑・・・・・まん・ ・、くり・・・・・・・・い・・これ
(角)な・・  ・・・・・まん・ ・ ・ ・・・・・・・・い・・これ
(集)な・・  ・・・・・まんなか・ ・ ・・・・・・・・いた・これ

   は 命より大事 な栗 だ。実の熟  する時分 は  起き抜け  に脊
(岩)・ ・・・・・ ・・ ・・・・・  ・・・・ ・  ・・・・  ・・
(偕)・ ・・・だいじ・・ ・・・・・  ・・・・ ・  ・・ぬ・  ・背
(講)・、・・・だいじ・くり・・・・じゅく・・じぶん・、 ・・ぬ・  ・うら
(角)・ ・・・・・ ・・ ・・・・・  ・・・に ・、朝・・てすぐ ・裏の
(集)・ ・・・だいじ・・ ・・・・・  ・・季節 ・、朝・・たらすぐ・裏の

    戸を出て 落ちた奴 を拾 ってきて、学校で食う。  菜園  の
(岩) ・・・・ ・・・やつ・・ ・・・・・・・・・・・  ・・  ・
(偕) ・・で・ ・・・やつ・・ ・・・・・・・・・・・  ・・  ・
(講) 門・で・、・・・やつ・ひろ・・・・・・・・・・・  やさい畑・
(角) ・・・・ ・・・やつ・・ ・・・・ ・・・・・・  ・・  ・
(集)木・・・・、・・・やつ・ひろ・・・・・・・・・・・この・・  ・

   西側 が  山城屋 と云う質屋の庭続 きで     、此 質屋に 勘太郎
(岩)・・ ・  ・・・ ・い・・・・・・ ・・     ・この・・・ ・・・
(偕)・・ ・  ・・・ ・い・・・・・つづ・・     ・この・・・ ・・・
(講)・がわ・、 ・・・ ・い・・・・・つづ・・     ・この・・・、・・・
(角)・・ ・、「・・・」・い・・・・・つづ・になっていて・この・・・ ・・・
(集)・・ ・、『・・・』・い・・・・・   ・     ・この・・・ ・・・

   という十三 四 の倅  が居た。勘太郎は 無 論 弱 虫 である。
(岩)・・・・・、・ ・・  ・い・・・・・・ む ろん・ ・ ・・・・
(偕)・・・・・、・ ・せがれ・い・・・・・・ む ろん・ ・ ・・・・
(講)・・・・・、・ ・せがれ・い・・・・・・ む ろんよわむし・・・・
(角)・・・・・、・ ・息子 ・い・・・・・・、もちろん・ ・ ・・・・
(集)・・・・・、・歳・息子 ・い・・・・・・、もちろん・ ・ ・・・・

   弱 虫 の癖 に 四つ目垣 を乗りこえて、栗 を盗 みにくる。
(岩)・ ・ ・くせ・ ・・・・ ・・・・・・・・ ・・ ・・・・・
(偕)・ ・ ・くせ・ ・・・・ ・・・・・・・・ ・・ ・・・・・
(講)よわむし・くせ・、・・・がき・の・・・・・くり・ぬす・・・・・
(角)・ ・ ・くせ・ 竹  ・ ・・・・・・・・ ・・ ・・・・・
(集)・ ・ ・くせ・、竹の ・根を・・・・・、・ ・・ ・・・・・

   ある日の夕方     折 戸の蔭 に隠 れて、とうとう勘太郎を捕
(岩)・・・・・・     ・ ・・かげ・・ ・・・・・・・・・・・・
(偕)・・・・・・、    ・り・・かげ・かく・・・・・・・・・・・つら
(講)・・・・・がた、   ・り・・かげ・かく・・・・・・・・・・・つか
(角)・・・・・・ 、     ・・陰 ・・ ・・・・・・・・・・・つか
(集)・・・・・・ 、おれは  ・・かげ・かく・・・・・・・・・・・つか

   まえてやった。其 時  勘太郎は逃げ路 を失  って、一 生  懸
(岩)・・・・・・・その・  ・・・・・・・ ・・  ・・・・ ・  ・
(偕)・・・・・・・そのとき ・・・・・・みち・うしな・・・・ ・  ・
(講)・・・・・・・そのとき、・・・・に・道 ・うしな・・・いっしょうけん
(角)・・・・・・・その・  ・・・・・・道 ・・  ・・・・ ・  ・
(集)・・・・・・・     ・・・・・・みち・・  ・・・いっしょうけん

   命 に飛びかかって来た。向 うは 二つ許 り年上である。
(岩)・ ・・・・・・・・・・・ ・・ ・・ばか・・・・・・・
(偕)・ ・と・・・・・き・・・こ・・ ・・ばか・・・・・・・
(講)めい・と・・・・・き・・むこ・・、・・ばか・・・・・・・
(角)・ ・・・・・・・き・・・こ・・ ・・ばか・・・・・・・
(集)めい・・・・・・・き・・・ ・・ ・・ばか・・・・・・・

   弱 虫 だが 力は強い。鉢 の開 いた頭を、こっちの胸 へ宛
(岩)・ ・ ・・ ・・・・・・ ・・ ・・・・・・・・・・ ・あ
(偕)・ ・ ・・ ・・・・・・ ・ひら・・・・・・・・・・ ・あ
(講)よわむし・・、・・・・・はち・ひら・・・・・・・・・むね・あ
(角)・ ・ ・・ ・・・・・大きな    ・・・・・・・・ ・あ
(集)・ ・ ・・ ・・・・・でかい    ・・・・・・・・ ・あ

   てて ぐいぐい押し  た拍  子に、勘太郎の頭がすべって、
(岩)・・ ・・・・・・  ・・  ・・・・・・・・・・・・・・
(偕)・・ ・・・・・・  ・ひょうし・・・・・・・・・・・・・
(講)・・、・・・・お・  ・ひょうし・・・・・・・・・・・・・
(角)・・・・・・・・・  ・・  ・・・・・・・・・・・・・・
(集)・・ ・・・・・・てき・ひょうし・・・・・・・・・・・・・

   おれの袷  の袖 の中に這入った。邪 魔になって 手が使え
(岩)・・・・  ・・ ・・・はい・・・・ ・・・・・ ・・・・
(偕)・・・・  ・そで・・・はい・・・じゃま・・・・ ・・・・
(講)・・・あわせ・そで・・・はい・・・じゃま・・・・、・・・・
(角)・・・着物 ・・ ・・・ ・・・・じゃま・・・・ ・・・・
(集)・・・着物 ・・ ・・・はい・・・じゃま・・・・ ・・・・

   ぬ から、無暗    に手を振ったら、袖 の中にある勘太郎の
(岩)・ ・・ むやみ   ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
(偕)・ ・・・むやみ   ・・・ふ・・・・そで・・・・・・・・・
(講)・ ・・・むやみ   ・・・ふ・・・・そで・・・・・・・・・
(角)ない・・・めちゃくちゃ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
(集)ない・・・やたら   と・・・・・・・       ・・・・

   頭が、右左へぐらぐら靡 いた。    仕舞 に 苦しがって 袖 の
(岩)・・・・・・・・・・なび・・・    しまい・ ・・・・・ ・ ・
(偕)・・・・・・・・・・なび・・・    しまい・ ・・・・・、そで・
(講)・・・左右・・・・・なび・・・    しまい・ ・・・・・、そで・
(角)・・・左右・・・・・なび・・・    最後 ・は・・・・・・・ ・
(集)・・・・・・・・・・動 ・・・勘太郎はしまい・ ・・・・・・・ ・

   中から、おれの二の腕 へ食い付いた。痛 かったから    勘
(岩)・・・・・・・・・・ ・・・つ・・・・ ・・・・・    ・
(偕)・・・・・・・・・・ ・・・つ・・・・ ・・・・・    ・
(講)・・・・・・・・・うで・・・つ・・・いた・・・・・、   ・
(角)・・・ ・・・・・・ ・・・つ・・・・ ・・・・・    ・
(集)・・・・・・・  ・ ・・・・・・・・・・・・・・、おれは・

   太郎を垣 根へ押しつけて置いて、足搦を  かけて向 うへ倒 
(岩)・・・・ ・・・・・・・お・・・・・・  ・・・・ ・・たお
(偕)・・・・ ・・・・・・・お・・・・・・  ・・・・こ・・たお
(講)・・・かきね・お・・・・お・・・・ ・  ・・・むこ・へたお
(角)・・・・ ・・・・・・・お・・・・ ・引っ・・・・こ・・・
(集)・・・・ ・・・・・・・    ・ ・  ・・・むこ・・・

   してやった。 山城屋 の地面は    菜園  より六尺がた   低い。
(岩)・・・・・・ ・・・ ・・・・    ・・  ・・・・・・   ・・・
(偕)・・・・・・ ・・・ ・・・・    ・・  ・・・・・・   ・・・
(講)・・・・・・ ・・・ ・・・・、   やさい畑・・・・・・   ・・・
(角)・・・・・・ ・・・ ・・・・、   ・・  ・・・・くらい  ・・・
(集)・・・・・・『・・・』・土地・、うちの・・  ・・二メートルほど・・・

   勘太郎は 四つ目垣 を半分崩 して、  自分 の領分 へ真 逆 様
(岩)・・・・ ・・・・ ・・・くず・・・  ・・ ・・・ ・・ ・ ・
(偕)・・・・ ・・・・ ・・・くず・・・  ・・ ・・・ ・まっさかさま
(講)・・・・、・・・がき・・・くず・・・  じぶん・・・ ・まっさかさま
(角)・・・・ 竹  ・ ・・・くず・・・  ・・ ・家の庭・まっさかさま
(集)・・・・    ・根の・・といっしょに、じぶん・家の方・まっさかさま

   に落ちて、 ぐう  と云った。勘太郎が落ちるときに、お
(岩)・・・・・ ・・  ・い・・・・・・・・・・・・・・・
(偕)・・・・・ ・・  ・い・・・・・・・・・・・・・・・
(講)・・・・・「・・。」・い・・・・・・・・・・・・・・・
(角)・・・・  ・・  ・言・・・・・・・・・・時 ・・・
(集)・・・・、「・・」 ・い・・・           お

   れの袷  の片袖 がもげて、急  に手が自由になった。其 晩
(岩)・・・  ・・・ ・・・・・・  ・・・・・・・・・・その・
(偕)・・・  ・・そで・・・・・・  ・・・・・・・・・・その・
(講)・・あわせ・・そで・・・・・きゅう・・・・・・・・・・その・、
(角)・・着物 ・・・ ・・・・ ・  ・・・・・・・・・・その・、
(集)・・着物 ・・・ ・・・・・・  ・・・・・・・・・・その・、

   母が 山城屋 に詫び  に行った序 でに 袷  の片袖 も取り返 し
(岩)・・ ・・・ ・・・  ・・・・つい・・ ・  ・・・ ・・・・ ・
(偕)・・ ・・・ ・わ・  ・い・・つい・・、・  ・・そで・と・かえ・
(講)・・ ・・・ ・わ・  ・い・・つい・・、あわせ・・そで・と・かえ・
(角)・・ ・・・ ・あやまり・・・・つい・・、着物 ・・・ ・・・かえ・
(集)・・『・・・』・あやまり・い・・つい・・、    ・・ ・・・かえ・

   て来た。
(岩)・・・・
(偕)・き・・
(講)・き・・
(角)・き・・
(集)・き・・

   此  外   いたずらは大分  やった。大工の兼公と肴  屋の角
(岩)この ほか  ・・・・・だいぶ ・・・・・・・・・・・  ・・・
(偕)この ほか  ・・・・・だいぶ ・・・・・・・・・・・  ・・・
(講)この ほか、 ・・・・・だいぶ ・・・・・・・・・・さかな・・・
(角)これ以・にも、・・・・・だいぶ ・・・・・・・・・・魚  ・・・
(集)この ほか、 ・・・・・ずいぶん・・・・・・・・・・魚  ・・・

   をつれて、茂作の人 参 畠  をあらした事 がある。人 参 の
(岩)・・・・・・・・・ ・ ・  ・・・・・こと・・・・・ ・ ・
(偕)・・・・・・・・にんじん畑  ・・・・・こと・・・・にんじん・
(講)・・・・・・・・にんじん畑  ・・・・・こと・・・・にんじん・
(角)・連・・・・・・にんじんばたけ・・・・・こと・・・・にんじん・
(集)・・・・・・・・にんじん畑  ・・・・・こと・・・・にんじん・

   芽が  出揃 わぬ   処  へ 藁 が一 面 に敷いてあったから、其 上
(岩)・・  ・・ ・・   ところ・ ・ ・・ ・ ・・・・・・・・・・その・
(偕)・・  ・そろ・・   ところ・ ・ ・いちめん・・・・・・・・・・その・
(講)・・  でそろ・・   ところ・、わら・いちめん・し・・・・・・・、そのうえ
(角)・・  ・そろっていないところに、わら・いちめん・し・・・・・・・・その・
(集)・・まだ・そろっていないところに、わら・・ ・ ・・・・・・・・・・その・

   で 三人が半日    相撲 をとりつづけに取ったら、人 参 がみ
(岩)・ ・・・・・    ・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・ ・・
(偕)・ ・・・・・    ・・ ・・・・・・・と・・・・にんじん・・
(講)・、   ・・、三人ですもう・・・・・・・と・・・・にんじん・・
(角)・ ・・・・・、   ・・ ・・・・・・・と・・・・にんじん・・
(集)・ ・・・・・、   すもう・・・・・・・・・・・・にんじん・・

   んな踏みつぶされて仕舞った。古川の持って居る田 圃
(岩)・・・・・・・・・しま・・・・・・・・・い・・ ・
(偕)・・・・・・・・・しま・・・・・・も・・い・・んぼ
(講)・・ふ・・・・・・しま・・・・・・も・・い・たんぼ
(角)・・・・・・・・・しま・・・・・・・・・い・・んぼ
(集)・・・・・・・・・しま・・・・・・・・・い・たんぼ

   の井戸を埋めて 尻 を持ち込ま れた事 もある。      太い孟宗
(岩)・・・・・・・ ・ ・・・・・ ・・こと・・・・      ・・・・
(偕)・・・・・・・ ・ ・も・こ・ ・・こと・・・・      ・・・・
(講)・・・・う・・、しり・も・こ・ ・・こと・・・・      ・・もうそうだけ
(角)・・・・・・・、文句・つけら  ・・こと・・・・      ・・竹
(集)・・・・・・・、文句・いいに来ら・・こと・・・・その井戸は、・・竹

   の節 を抜いて、深く埋めた中から 水が湧き出て、そこ
(岩)・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・
(偕)・・ ・ぬ・・・・・・・・・・・ ・・わ・で・・・・
(講)・ふし・ぬ・・・・・う・・・・・ ・・わ・で・・・・
(角)・・ ・ぬ・・・・・・・・・・・ ・・わ・・・・まわ
(集)・・ ・ぬ・・ ・・・・・・・・、・・わ・・・・・の

   いら の稲 に水がかかる仕掛 であった。其 時分 は    どんな
(岩)・・ ・・ ・・・・・・・・ ・・・・・その・・ ・    ・・・
(偕)・・ ・・ ・・・・・・・・け・・・・・その・・ ・    ・・・
(講)・・ ・いね・・・・・・しかけ・・・・・そのじぶん・、   ・・・
(角)り  ・・ ・・・・・・しかけ・・・・・その・  ・、   ・・・  
(集)あたり・・ ・・・・・・しかけ・・・・・そのころ ・、おれは・・・

   仕掛 か知らぬ から、石や棒ちぎれをぎゅうぎゅう井戸の中
(岩)・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(偕)・・け・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(講)しかけ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(角)しかけ・・・ない・・・・・・   ・・・・・・・・・・・
(集)しかけ・・・ない・・・・・・ き・・・・・・・・・・・・

   へ挿し込んで、水が出なくなったのを見届 けて、うち
(岩)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・
(偕)・さ・こ・・・・・で・・・・・・・・とど・・・・・
(講)・さ・こ・・・・・で・・・・・・・・とど・・・・・
(角)・さ・こ・・・・・・・・・・・・・・とど・・・・・
(集)・さ・こ・・・・・・・・・・・・・・とど・・・・・

   へ帰って飯 を食って居たら、古川が真赤 になって怒鳴
(岩)・・・・・ ・・・・い・・・・・・・・ ・・・・・・
(偕)・・・・・ ・・・・い・・・・・・まっか・・・・どな
(講)・・・・めし・・・・い・・・・・・まっか・・・・どな
(角)・・・・・ ・・・・い・・・・・・まっか・・・・どな
(集)・・・・・ ・・・・い・・・・・・まっか・・・・どな

   り込んで来た。       慥 か 罰金を出して 済んだ様 である。
(岩)・・・・・・・       たし・ ・・・・・・ ・・・よう・・・・
(偕)・こ・・き・・       たし・ ・・・だ・・、す・・よう・・・・
(講)・こ・・き・・       たし・、・・・だ・・ す・・よう・・・・
(角)・こ・・き・・       たし・、 ・・払っ・ す・・よう・・・・
(集)・こんできた。※そのときは、たし・  ・・払っ・ す・・よう・・・・
   ※それはそうだろう、水がなければ稲が枯れてしまう。

阿川弘之

作家の阿川弘之さんが死去 文化勲章受章者

「山本五十六」など文学性に満ちた戦争小説で知られる作家で、文化勲章受章者の阿川弘之(あがわ・ひろゆき)さんが3日午後10時33分、老衰のため都内の病院で死去した。94歳だった。偲ぶ会を行うが日取りなどは未定。

 広島市生まれ。1942年に東京帝大(現東大)国文科を繰り上げ卒業後、予備学生として海軍に入隊。士官として通信諜報(ちょうほう)の任務につく。中国・漢口で終戦を迎え、帰国後は志賀直哉に師事して小説を執筆。自らの体験をもとに、海軍予備学生たちの青春を端正な筆致でつづった「春の城」(52年、読売文学賞)で作家としての地位を確立した。(日本経済新聞)


「第三の新人」の一人…と言っても、個人的には遠藤周作は読んだけれども、阿川弘之はほとんど読んだことがない。
けれども、当ブログにご来訪されている諸兄が阿川作品の読者かどうかは判らないけれども、そうでなかったとしても、『きかんしゃやえもん』の作者だと言えば、知らない人はいないだろうと思う。
まったく知らなかったのだが、無類の鉄道マニアだったんだとか。

ところで、昔々、遠藤周作とごく親しかった方から伺った話。
園遊会か何か、阿川が遠藤と一緒に出席した時のこと、当時の皇太子殿下(現天皇陛下)に声を掛けられて、遠藤が「はあ、はあ」と適当に答えていると、阿川に、「『はあ』とは何事だ、『はい』と言え」と怒られて、仕方なく「はい、はい」に答えを切り替えた。
その後阿川が酔っ払ってしまって、次に皇太子殿下が回って来た時には、「皇太子さんよう!」と言って肩を叩いたのを見て遠藤が唖然とした、という。
もっとも、遠藤の話の又聞きのうろ覚えだから、脚色や記憶違いがあるだろうとは思う。だからこれを、根拠ある出典として何事かに使用すること勿れ。

校本『坊っちゃん』(1-1)

凡例

     一

章題、(岩)(偕)は同じ。
(講)「第一編 わんぱく時代 いたずらっ子」
(角)は「一」の後に「負けん気が強く、いたずら好きの坊っちゃん。学校を卒業して四国の中学校の教師に。かわいがってくれた家政婦の清ともわかれ、一人、四国へ旅立って行く坊っちゃん。」とする。
(集)は「プロローグ」とした後に「1」とする。


   親譲 りの無鉄 砲 で 小供 の時 から 損 ばかりして居る。
(岩)・・ ・・・・ ・ ・ こども・・ ・・ ・ ・・・・・い・・
(偕)・ゆず・・・・ ・ ・ 子ども・とき・・ ・ ・・・・・い・・
(講)・ゆず・・むてっぽう・、子ども・とき・・、そん・・・・・い・・
(角)・ゆず・・・・ ・ ・、子ども・・ ・・ ・ ・・・・・い・・
(集)・ゆず・・むてっぽう・、子・・・・・・・、・ ・・・・・い・・

   小学校に居る時分  学校の二階から飛び降りて 一週間程 
(岩)・・・・い・・・  ・・・・・・・・・・・・ ・・・ほど
(偕)・・・・い・・・  ・・・・・・・・・お・・ ・・・ほど
(講)・・・・い・じぶん、・・・・・・・と・お・・ ・・・ほど
(角)・・・・い・・、  ・・・・・・・・・・・・、・・・ほど
(集)・・・のとき、   ・・・・・・・・・お・・・・・・ほど

   腰 を抜かした事 がある。 なぜ そんな無闇    をした  と聞く
(岩)・ ・・・・・こと・・・・ ・・ ・・・・・    ・・・  ・・・
(偕)・ ・ぬ・・・こと・・・・ ・・ ・・・むやみ   ・・・  ・・・
(講)こし・ぬ・・・こと・・・・「・・、・・・むちゃ   ・・・。」・・・
(角)・ ・ぬ・・・こと・・・・ ・・ ・・・むちゃ   ・・・  ・・・
(集)・ ・ぬ・・・こと・・・・ ・・ ・・・むちゃなこと・・・、 ・・・

   人があるかも知れぬ 。別 段 深い理由でもない。新築の   
(岩)・・・・・・・・・ ・べつだん・・・・・・・・・・・・
(偕)・・・・・・し・・ ・べつだん・・・・・・・・・・・・
(講)・・・・・・し・・ ・べつだん・・わけ・・・・・・・・
(角)・・い・・・し・ない・べつに ・・・・・・・・・校舎・
(集)・・・・・・し・ない・べつに、・・・・は ・・・・・・校舎の

   二階から首を出して居たら、同級生の一人が 冗  談 に、 
(岩)・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・ ・  ・ ・・
(偕)・・・・・・だ・・い・・・・・・・・・・ ・  ・ ・・
(講)・・・・・・だ・・い・・・・・・・・・・ じょうだん・・
(角)・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・、じょうだん・・
(集)・・・・・・・・・い・・・・・・・・・・・・  ・ ・・

    いくら威張っても、そこから飛び降りる事 は出来まい。
(岩) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・こと・・・・・・
(偕) ・・・いば・・・・・・・・・・お・・こと・でき・・・
(講)「・・・いば・・・・・・・・と・お・・こと・でき・・・
(角)「・・・いば・・・・・・・・・・・・・こと・でき・・・
(集)「・・・いば・・・・・・・・・・お・・こと・でき・・・

   弱 虫 やーい。 と 囃 したからである。小使 に負ぶさって
(岩)・ ・ ・・・・ ・ ・ ・・・・・・・・・・ ・お・・・・
(偕)・ ・ ・・・・ ・ はや・・・・・・・・・・ ・お・・・・
(講)よわむし・あ・・」・ はや・・・・・・・・・・い・お・・・・
(角)・ ・ ・・・」 ・、はや・・・・・・・・事務員・お・・・・
(集)・ ・ ・・・」 ・、はや・・・・・・・・用務員・お・・・・

   帰って来た時 、おやじが大きな眼をして  二階位  から飛
(岩)・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・  ・・ぐらい・・・
(偕)・・・き・とき・・・・・・・・目・・・  ・・ぐらい・・・
(講)・・・き・とき・・・・・・・・目・・・、「・・くらい・・と
(角)・・・き・・ ・・・・・・・・目・・・、「・・ぐらい・・・
(集)・・・き・とき・・・・・・・・目・・・ 「・・ぐらい・・・

   び降りて 腰 を抜かす奴 があるか  と云ったから、 此 次 は 
(岩)・・・・ ・ ・・・・・ ・・・・  ・い・・・・・ この・ ・
(偕)・お・・ ・ ・ぬ・・やつ・・・・  ・い・・・・・ このつぎ・
(講)・お・・、こし・ぬ・・やつ・・・・。」・い・・・・・「このつぎ・、
(角)・・・・、・ ・ぬ・・やつ・・・・」 ・言・・・・・「この・ ・、
(集)・お・・・・ ・ぬ・・やつ・・・・」 ・い・・・・・「この・ ・、

   抜かさずに飛んで見せます  と答えた。
(岩)・・・・・・・・・・・・  ・・・・・
(偕)ぬ・・・・・・・み・・・  ・・・・・
(講)ぬ・・・・と・・み・・・。」・・・・・
(角)ぬ・・・・・・・み・・・」 ・・・・・
(集)ぬ・・・・・・・み・・・」 ・・・・・

   親類のものから 西洋製の  ナイフを貰 って 奇麗 な刃を
(岩)・・・・・・・ ・・・・  ・・・・もら・・ きれい・・・
(偕)・・・・・・・ ・・・・  ・・・・もら・・ きれい・・・
(講)・・・・・・・、・・でできた・・・・もら・・、きれい・・・
(角)・戚   ・・ ・・・・  ・・・・もら・・、きれい・・・
(集)・戚・・・・・、・・・・  ・・・・もら・・、きれい・・・

   日に翳 して、友達 に見せて居たら、     一人が  光る事 は光
(岩)・・・ ・・・・・ ・・・・い・・・     ・・・  ・・こと・・
(偕)・・かざ・・・・だち・・・・い・・・     ・・・  ・・こと・・
(講)・・かざ・・・・だち・・・・い・・・     ・・・、「・・こと・・
(角)・・かざ・・・・だち・・・・い・・・その中の ・・・、「・・こと・・
(集)・・かざ・・・・だち・・・・い・・・そのうちの・・・、「・・こと・・

   るが 切れそうもない  と云った。     切れぬ 事 があるか、何
(岩)・・ ・・・・・・・  ・い・・・     ・・・ こと・・・・・・
(偕)・・ ・・・・・・・  ・い・・・     ・・・ こと・・・・・・
(講)・・、・・・・・・・。」・い・・・    「・・・ こと・・・・・なん
(角)・・、・・・・・・・」 ・い・・・    「・・ないこと・・・・・なん
(集)・・、・・・・・・・」 ・い・・・おれは、「・・・ こと・・・・・なん

   でも切って見せる  と受け合った。 そんなら 君 の指を切
(岩)・・・・・・・・  ・・・・・・・ ・・・・ ・ ・・・・
(偕)・・・・・み・・  ・・・あ・・・ ・・・・ ・ ・・・・
(講)・・・・・み・・。」・う・あ・・・「・・・・、きみ・・・・
(角)・・・・・み・・」 ・・・あ・・・「・・・・ きみ・・・・
(集)・・・・・み・・」 ・保証し ・・「・・・・、きみ・・・・

   って見ろ      と注文したから、     
(岩)・・・・      ・・・・・・・・
(偕)・・み・      ・・・・・・・・
(講)・・み・。」    ・・・・・・・・
(角)・・み・」     ・言われ・・・・
(集)・・み・」とそいつが ・・・・・・・

        何 だ 指位   此 通 りだ  と 右の手
(岩)     ・ ・ ・くらい この・ ・・・・・ ・
(偕)     なん・ ・ぐらい この・ ・・・・・ ・
(講)    「なん・、・くらい、このとお・・。」・ ・・・
(角)    「なん・、・ぐらい このとお・・」 と、・・・
(集)おれは、「なん・、・ぐらい このとお・・」 と ・・・

   の親指の甲    を はす に切り込んだ。幸    ナイフが小さいの
(岩)・・・・・    ・ ・・ ・・・・・・・・い   ・・・・・・・・
(偕)・・・・・    ・ ・・ ・・・こ・・・さいわい ・・・・・・・・
(講)・・・・・    ・、・・ ・・・こ・・・さいわい、・・・・・・・・
(角)・・・・・    ・ ななめ・・・こ・・・さいわい ・・・・・・・・
(集)・・・・・のところ・、ななめ・・・こ・・・さいわい ・・・・・・・・

   と、親指の骨 が堅 かったので、今 だに親指は手に付い
(岩)・・・・・・ ・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・
(偕)・・・・・・ ・かた・・・・・・いま・・・・・・・つ・
(講)・・・・・ほね・かた・・・・・・いま・・・・・・・つ・
(角)・・・・・・ ・かた・・・・・・いま・・・・・・・つ・
(集)・・・・・・ ・かた・・・・・・いま・・・・・・・つ・

   ている。しかし 創 痕 は死ぬまで消えぬ 。
(岩)・・・・・・・ ・ ・ ・・・・・・・・ ・
(偕)・・・・・・・、傷 あと・・・・・・・・ ・
(講)・・・・・・・・きずあと・・・・・・・・ ・
(角)・・・・・・・、傷 あと・・・・・・・ない・
(集)・・・・・・・・きずあと・・・・・・・ない・

校本『坊っちゃん』(凡例)

[凡例]

近代における小説は、著者が執筆した原作に近似した形態で流布されるのが通常である。
が、こと児童書に関して言えば、著者原作から乖離した本文で刊行されることが、しばしばあるように見受けられる。
児童書としての性質上、読者たる児童の読解を容易ならしむる本文に改変することが、一切許容されないとは言い切れない。けれども、児童書がそういった読者層の制約から自由ではありえないからこそ、その乖離を理解し認識したうえで、どの書籍を児童に与えるかを判断する責務が、大人にはあると思量する。が、現状では、その判断を行なうだけの材料が、提供されているとは看做しがたい。
そこで、児童向けに出版された、夏目漱石の『坊っちゃん』の諸本の異同を比較して、その資料を提供しようとする。
当「校本」は、『漱石全集/第三巻』(岩波書店、昭和三一年)を底本とするけれども、児童向け書籍の本文の対校という目的を鑑みて、表記は新字新かなを採用する。
対校する本文は、底本と表記が一致する場合には「・」を付し、一致しない場合のみ、該当の本文を記載する。該当する本文がない場合には空白とするけれども、大幅な缺文がある場合、[ナシ]と記載することがある。
底本の改行に合せて改行するが、校異の関係で長くなる場合に、途中で底本にない改行を入れる場合がある。
また、長大な加筆が加えられていて行内に記載し切れない場合、※印を付して、行外に記載する場合がある。
なお、本来なら、ルビをも含めて校異の対象とすべきところだが、煩を避けて割愛した。改行や行開けについても、再現するのが困難であり、看過せざるをえなかった。
そのような限定があるとはいえ、教科書にもしばしば採択される作品だから、青少年へ提供する本文のあり方を考えるうえで、裨益するところがないともいえないのではあるまいか。

対校に使用した本文とその略称は、以下の通り。なお、参考までに、書肆の想定する各書の読者の年齢層を併記する。

 岩波少年文庫(岩波書店、平成一四年)…(岩) 中学以上
 偕成社文庫(偕成社、昭和六三年)…(偕) 小学上級から
 講談社青い鳥文庫(福田清人編。講談社、平成一九年)…(講) 小学上級から
 角川つばさ文庫(後路好章編。角川書店、平成二五年)…(角) 小学上級から
 集英社みらい文庫(森川成美構成。集英社、平成二三年)…(集) 小学中級から