柳腰外交

辞典繋がりの余談。

現政権が舌禍続きで、とうとう閣僚の辞任にまで発展した。
それはそれとして、舌禍の元祖の官房長官が発した「柳腰外交」ということばは、もはや市民権を得ているようである。しなやかでしたたかな外交、ということらしいのだが、このことば、どうにも違和感がある。

自民党の某議員が「柳腰」発言を舌鋒鋭く批判したらしいが、それにしても、このことばは元々女性を表現するものだから政治にはそぐわない、という趣旨だったようである。もっとも、新聞の記事で見ただけで、発言全体を理解しているわけではないが。
「柳腰外交」を批判するマスコミも、すくなくとも僕の受ける印象では、現政権の外交政策が「しなやかでしたたか」な「柳腰外交」ではなく、ただの「弱腰外交」だ、という点で批判しているように思われる。「柳腰=したたか」であること自体には、疑義を呈してはいないようだ。つまり、どう見ても「弱腰」なのに、それを「柳腰」と称して誤魔化している、ということが批判されているのである。

さて、「柳腰」ということばは、辞典にはどのように書かれているか。家にはないものも含めていくつか上げてみる。

古いところで。

『大言海』…「婦人ノ腰ノ細ソキヲ云フ語。ホソゴシ。蜂腰」

「蜂腰(ほうよう)」は、「蜂のようにくびれた腰」(『日本国語大辞典』)だから、「柳腰」とはちょっと違うような気もするが、それ以外の部分については、ほぼ、現行の多くの辞書に引き継がれるところである。

『広辞苑 第6版』…「細くてしなやかな腰つき。美人の腰の形容」
『新明解国語辞典』…「〔女性の〕しなやかな腰つき」
『旺文社国語辞典』…「しなやかな細い腰。美人の腰の形容」
『改訂新潮国語辞典』…「細いしなやかな腰。美人の姿の形容」
『日本語大辞典』…「女の細くしなやかな腰つき。美人の腰の形容」


「女性の」と限定していないものもあるが、「美人の腰(姿)の形容」としているから、女性についての表現であるのには違いない。

『岩波国語辞典 第6版』…「シダレヤナギを思わせる、すんなりした細い腰つき。美人の腰の形容」

「シダレヤナギ」に限定する根拠は良く判らないが、それ以外については大きく変わるものではない。

『日本国語大辞典 第2版』…「女性の細いしなやかな腰。また、腰細の美人。やなぎの腰。やなぎ」

引用されている用例。

  「町の幅さへ細々の柳腰・やなぎがみ」(女殺油地獄)
  「ほっそりすうわり柳腰といふじゃあねへか」(浮世風呂)

これだけの引用では即断できないが、やはり「細い」というところに眼目があるようである。

当然、古語辞典でも同じようである。

『岩波古語辞典』…「細くてしなやかな腰付」

漢語に由来する言葉らしいので、念のために漢和辞典を引いてみる。

『大漢和辞典』…「やなぎごし。美人の喩。細腰。繊腰」

辞典に書いてあることだけで結論づけては本当はいけないのだが、これを見る限りでは、「柳腰」は、いわば「スレンダーな美女」を表わすことばのようである。「柳腰」には、「しなやか」という姿態を表わす意味があるとしても、「したたか」という性格を規定するような意味合いはなさそうである。

だとすれば、「柳腰外交」では、女らしい科を作る外交、ということになってしまって、けっして強い態度で交渉するような雰囲気はない。「弱腰外交」と言うのと、さしたる違いはないことになるのではないか。
「したたか」な外交を、どうしても腰にこだわって名付けたいのなら、「二枚腰外交」(=相手に押されても簡単には屈しない粘り強い外交)とでもしたらいかがか。
いや、そんな命名をしたら、野党から「二枚舌外交だ!」と追及されるのは目に見えているか。

(余談)
本当は、辞任に至る前にさらっと書こうと思っていたのだが、思ったより早くそういう事態になってしまった。書くのが1日遅れた、という感じである。

No title

>「シダレヤナギ」に限定する根拠は良く判らないが、それ以外については大きく変わるものではない。

ヤナギを指す漢字は「柳」と「楊」がありますが、「柳」がシダレヤナギを指すのに対し、「楊」はネコヤナギなどを指します。
「ヤナギゴシ」は「柳腰」ですから、シダレヤナギ限定なんでしょう。

僕は『現代漢語詞典』を引いてみました。現代中国語の中国では一番ポピュラーな辞典です。

柳腰liu3yao1 (名)指女子柔軟的細腰

うげげげげげ。

日本語と意味は同じですが、現代の日本よりも一般的に使われる言葉のようで、「柳腰」でニュース検索すると「釈由美子の柳腰写真がどうの」とかいう記事に交じって、「柳腰外交」が出てきます。

http://news.baidu.com/ns?cl=2&rn=20&tn=news&word=%C1%F8%D1%FC

中国人からしたら、かなりキモい外交なんでしょうね。
[ 2010/11/22 23:35 ] [ 編集 ]

Re: No title

> ヤナギを指す漢字は「柳」と「楊」がありますが、「柳」がシダレヤナギを指すのに対し、「楊」はネコヤナギなどを指します。

そう言われてみれば、そうですね。「楊柳」という語もありますし。
『岩波古語』が正しいわけですな。もっとも、語源がそうだから、現代日本語の意味としてもそうあらねばならぬとは言い切れないところはありますが。

> 「釈由美子の柳腰写真がどうの」とかいう記事…

これはあるいは『大言海』の「蜂腰」に通じるのかもしれません。

> 中国人からしたら、かなりキモい外交なんでしょうね。

日本人の僕からしても、かなりキモいです。外交というよりことばとしてですが。
でも、元の語とは違う新たな意味を付与してそれが一般化した点からすれば、流行語大賞級の発言と言えないこともありません。でも、やっぱりキモいです。
[ 2010/11/23 18:38 ] [ 編集 ]

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