「まにまに」

昨日も取り上げた『近代異妖篇 岡本綺堂読物集三』より。

普通の幽霊草といふのは曼珠沙華のことで、墓場などの暗い湿つぽいところに多く咲いてい(ママ)るので、幽霊草とか幽霊花とか云ふ名を附けられたのだが、こゝらで云ふ幽霊藻はまつたくそれとは別種のもので、水のまにゝゝ漂つてゐる一種の藻のやうな萍だ。(「水鬼」P77~78)


これ自体は何ということもないのだけれども、「まにまに」ということばを見ると、思い出すことがある。

長い学生時代の最後の頃だったか、ある先輩が、自身の師匠の論文(?)の校正をしていた。その文章が掲載される論集が、僕がアルバイトしていた出版社から出されるものだった関係で、その先輩が赤入れした校正刷りを見ることになった。
すると、源氏物語の浮舟が「波のまにまに漂って行く」というようなことが書かれていた箇所を、その先輩が「波のままに」に直しているのを見つけた。
「川の流れの」というような表現なら「ままに」でも良いかも知れないけれども、「波のまにまに」というのは小舟が波にもまれて行ったり来たりする様子を、2人の男の間で揺れ動く浮舟にたとえたものだろうから、それを「ままに」に直してしまったら台無しである。
執筆者の意図は明白で確かめるほどのことでもなく、校正者に断るのも先輩に対して語彙不足を指摘するようなのが憚られて、黙って最終校正を元の通り「まにまに」に戻して下版した。

ただそれだけのことなのだけれども、観点を変えれば、異文が生まれる原因の一つを、目の当たりにした瞬間だったと言えないこともない。

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