統計

しばらく前に、有給休暇の取得に対する各国の比較のニュースがあった。
アメリカかどこかの統計の紹介だったが、もうどこにあったか探せないので要点だけ書くと、

 「有給休暇を取り切った労働者の割合は、フランスが90%と最も高く、日本は30%と最も低かった。」

というようなことだった。パーセンテージはうろ覚えだが、似たような数字だったはずである。

ここで日本の労働問題について論じるつもりは毛頭ない。物事の論証の仕方ということを考えようとするのである。

この記事を書いた記者は、日本の労働環境が諸外国に比べて悪いという認識で、この統計を紹介したのだろうと思う。だが、この統計の有効性は、どれほどあるか。

この統計で示されているのは、「有給休暇を使い切った人の率」である。

例えば、20日間の有給休暇を取得可能で、従業員100人の会社が3社あったとする。

有給休暇取得日数
A社 80人=20日/20人=0日
B社 30人=20日/70人=15日
C社 100人=18日


これを元に、統計を出す。

(統計1)
有給休暇を使い切った従業員の比率。
 A社 80%
 B社 30%
 C社  0%
A社は圧倒的に多くの従業員が有給休暇を使い切っている。労働条件は最も良い。それに対してC社では1人も使い切った従業員がいない。C社の労働条件は劣悪であり、法的な措置を取ってでも早急に改善する必要がある。

(統計2)
取得した有給休暇ののべ日数。
 A社 1600日
 B社 1650日
 C社 1800日
A社はC社に比べ、取得したのべ日数が200日少ない。従業員1人当たりに換算すると2日の違いではあるが、やや有給休暇を取得しにくい雰囲気がある可能性があり、改善に向けた努力をすることが望ましい。

(統計3)
取得できなかった有給休暇ののべ日数。
 A社 400日
 B社 350日
 C社 200日
A社はC社に比べ、取得できなかった有給休暇の日数が2倍に上る。C社が比較的有給休暇を取得しやすいのに比べ、A社には明らかに有給休暇を取得しにくい雰囲気が蔓延していると見られ、改善の必要がある。


(統計1)が、件のニュースが取り上げた統計の使い方である。

有給休暇を使い切る人が多ければ、有給休暇を取得しにくい雰囲気がない、ということは言えるかもしれない。20人が何故1日も取得しなかった(できなかった)のかは判らないが、80人の従業員は20日間丸々取得しているわけである。
だが、使い切る人が少ないからといって、取得しにくい雰囲気があるとは必ずしも言い切れない。同じデータをもとにしていても、(統計1)と(統計3)では、まったく逆の結論が導き出されている。つまり、(統計1)の数字自体には間違いはないけれども、それを元に労働条件を云々するのは有効とは言いがたいのである。

(元々の統計を出した人の意図は知らないが)件の記事の記者は、日本の労働条件の悪さを何とかしたいと考えたのだろう。そのこと自体を否定しようとは思わない。けれども、そうであるならば、有効な資料に基づいて物を言わなければ意味がない、と思う。

もっとも、実際には、有給休暇を使い切る人が少ない国では取得率も低いかもしれない、という想像は容易に付く。先ほどの3社の例のようなもので言うと、

A'社 80人が使い切り、残りの20人が15日ずつ取得した。
B'社 30人が使い切り、残りの70人が10日ずつ取得した。
C'社 使い切った人は1人もおらず、100人全員が5日ずつ取得した場合。


という方が、現実に即した例だろう。
この場合、のべ取得日数は、A'社1900日、B'社1300日、C'社500日となり、(統計1)の順位に一致する。だから、一般論として言えば、(統計1)の結論は間違いではないかもしれない。

けれども、統計を元に何かを主張しようとする場合、それがウソ統計でないことを明らかにしておかないと、説得力を持つことはできないのである。
[ 2010/09/11 09:35 ] 理屈・屁理屈 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

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