丘に建つ病院

知人(エヌ氏と仮称)が今、中学生に国文法を教えているという。そのエヌ氏から聞いた話。

「文節」を教えていて、問題集に次のようなものがあったそうである。

次の語句を適切な順序に並べ替えて文章を作れ。

「病院です 生まれたのは 建つ 湖を 見下ろす 私が 丘に」


正解は、

 「私が生まれたのは湖を見下ろす丘に建つ病院です」(以下、この文をAと言う)

である。

エヌ氏によると、生徒の答案の中には、

 「私が建つ湖を生まれたのは丘に見下ろす病院です」

などというような意味不通のものもあり、また、意味は通じるものの、

 「私は湖を見下ろす丘に建つ病院で生まれました」

という、「並べ替え」が判っていないものも少なからずあったそうである。
さらにひどいのになると、

 「丘が生まれたのは病院を見下ろす湖が建っている私です」

のような、両者複合のものもあって、それらは明確に不正解なのだが、次の解答はどう判断して良いか困った、というのである。

 「私が生まれたのは丘に建つ湖を見下ろす病院です」(以下、この文をBと言う)

問題集の正解はあくまでもAで、Bは許容解にもなっていない。だが、意味は通じるので、Bを間違いだとは断定できない。どうしたものか? というのが、エヌ氏が困っていたことである。

細かいことを言うと、AとBでは、言っていることが微妙に異なる。
湖を見下ろすのが、Aでは「病院」であり、Bでは「丘」である。丘に病院が建っているのだから、どちらからでも湖は見下ろせるかもしれないが、丘から湖が見えるからといって病院から湖が見下ろせるとは限らないし、丘からは湖が見えなくても、病院の上層階からなら湖を見下ろせる場合もある。そういう意味では、AとBとは、言っていることが違う、のである。
とは言っても、この問題の前提として、地理的条件が設定されているわけではないから、示している内容の違いから、解答の正否を判断することはできない。

さて、A・B2つの文を簡単に図示すると、以下のようになる。
ただし、僕のHTMLの知識の制約により、適切な図を書くことはできていないので、悪しからず。

(A) 私が生まれたのは―湖を>見下ろす>丘に>建つ>病院です。

(B) 私が生まれたのは―[丘に>建つ]>[湖を>見下ろす]>病院です。


まず、Bであるが、「丘に>建つ」のは、その直後の「湖」ではなく、文末の「病院です」である。そして、「湖を>見下ろす」のも、同じく「病院です」である。つまり、「[丘に>建つ](>病院です)」と「[湖を>見下ろす]>病院です」が並列するような形になっている。
もう少し判りやすく図示すれば、次のようになろう。

  〔[丘に>建つ][湖を>見下ろす]〕>病院です

それに比べると、Aは、

  湖を>見下ろす
  [湖を>見下ろす]>丘に
  〔[湖を>見下ろす]>丘に〕>建つ
  【〔[湖を>見下ろす]>丘に〕>建つ】>病院です

という具合に、直線的に下へ下へと順々に掛かって行く。
つまり、Bが「丘に>建つ」の述語を一旦保留して読み進めなければならないのに対して、Aにはそういう必要がない。
それに、Bには「丘に>建つ>湖を」という誤読を誘発する可能性がなくはないから、それより自然な文章が作れるのであれば、間違いではないにしても敢えてBを採らなければならない理由はない。「適切な文章」を作るという設問の回答として、正解はAだということで、問題はないだろう。

…という話を、エヌ氏とした、というお話。

(続く…んじゃないかな?)

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[2011/10/04 00:08] URL HOSHINA HOUSE