「好き対照」

「好対照」ということばがある。たぶんある。Microsoft Office IME 2007でも問題なく変換される。けれどもこのことば、『日本国語大辞典』にも載っていない。
『逆引き広辞苑』を見る限り、「こうたいしょう」に合致する項目は「菌交代症」しかないから、『広辞苑(第4版)』にも、載っていないようである。なお、『逆引き…』で物を言っているのは、『広辞苑』を持っていない(注1)からである。

極めて安直な手法で恐縮だが、「青空文庫」を検索してみると、芥川龍之介や種田山頭火に「好対照」の例が出る。だから、国語辞典には載っていない(注2)としても、けっして間違ったことばではないと思われる。

同じく「青空文庫」によれば、田中正造や豊島与志雄に「好個(箇)の対照」という例が見られる。「好個(箇)」は、「ほどよい。ちょうどよい。適当な」の意味で、「個・箇は、助辞」(『新版漢語林』)。
この「好個(箇)の対照」が「好対照」になったのかもしれないが、これだけの資料で何かを言ったところでまるで意味がない。

では、何故そんなことを書いたのか、と言うと、次の例をメモしておきたかったからに過ぎない。
谷崎潤一郎の『文章読本』の一節である。

そう云えば、漱石の「吾輩は猫である」の文字使いは一種独特でありまして、「ゾンザイ」を「存在」、「ヤカマシイ」を「八釜しい」などと書き、中にはちょっと判読に苦しむ奇妙な宛て字もありますが、それらにもルビが施してない。その無頓着で出鱈目なことは鴎外と好き対照をなすのでありますが、それがあの飄逸な内容にしっくり当て嵌まって、俳味と禅味とを補っていたことを、今に覚えているのであります。(「文章の要素」)


(注1)
どうでも良いことなのだが、「『広辞苑』も持ってないの?」と思われるのも業腹なので敢えて書いておくと、僕にとっては別段必要がないのである。
(注2)
もっとも、最新の国語辞典を確認していないので、載っていないとも限らないが…。

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