逆接の接続助詞「を」に関する断片語(1)

備忘のために書き付ける。特段の結論があるわけではない。

昔、男、ありけり。女の、え得まじかりける、年を経て呼ばひわたりける、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。(『伊勢物語』6段)


この文には助詞「を」が2度出て来るが、手許にあるいくつかの注釈を見る限り、例外なく、前者を格助詞、後者を接続助詞と理解しているようである。
後者の解の1例を上げれば、「求婚し続けていたが」(新潮日本古典集成)ということである。

ところで、「女の、え得まじかりける」について、「手に入れがたい女」というふうに解釈されるのが通例だが、それなら本文は「え得まじかりける女」とあるべきで、この訳文では原文と齟齬が出る。
この「の」を所謂「同格」として、「女、手に入れがたい女を」とするものもあるけれども、僕は「同格」を認めない立場だから、この解は採らない。
「女の」の「の」は連用修飾で、「女」の状態が「え得まじかりける」であることを表わす。
だから、素直に、「女の、とてもわがものにできそうになかったのを」(角川文庫)と解すれば良いのである。そして、この場合の「なかったを」の「の」は女のことだから、「え得まじかりける(女)」ということである。
もっとも、これは、「手に入れがたい女」と解釈した時と、結局のところは同じことだと言えないわけではないのだけれども、表現として「女の、え得まじかりけるを」とされていることを、無視することはできない。それで、あえて一言したのである。
いずれにせよ、「え得まじかりける(女)、年を経て呼ばひわたりける」という文脈だから、この「を」が格助詞であることは、疑問の余地がない。

問題は、「年を経て呼ばひわたりける」の「を」である。
「を」が接続助詞であるとすれば、「を」の前項と後項とを接続する機能を果たす。この場合、前項が「年を経て呼ばひわたりける」であり、後項が「からうじて盗み出で」である。

さて、前項「年を経て呼ばひわたりける」と後項「からうじて盗み出で」とが逆接で接続されることは、何を根拠として判断されているのか。
「年を経て呼ばひわたりける」と「からうじて盗み出で」との関係を内容的に考慮して、この文脈からすれば、逆接の接続助詞と見做すのが妥当だ、ということであろうか。

だが、文脈から、助詞の機能を認識するというのは、本末転倒である。
たとえば、「笛吹け踊らず」という場合、「笛吹け」と「踊らず」とが逆接として接続されているという判断は、両者が内容的に逆接として接続されるべきものであることから判然するのではない。「ど」自体が逆接の接続助詞だからである。
だから、同じく「笛吹け」と「踊らず」を接続助詞で接続したとしても、「笛吹け踊らず」なら、順接になるのである。
笛を吹いたら踊るのが当たり前で、「笛吹け」では意味が通らないではないか、と言われるかもしれないが、たとえば、太鼓を叩かなければ踊らない、という前提があれば、「笛吹け踊らず」という表現も、成り立つのである。
つまり、これら「笛吹け X 踊らず」の場合、「笛吹け」と「踊らず」の内容からではなく、「X」すなわち「ど」とか「ば」とかの助詞そのものから、逆接乃至順接であることを、判別しているのである。

(続く)

これは「年を経て呼ばひわたりける」が述部になっているからじゃないですか?
つまり、主語「(男は)」、述部「年を経て呼ばひわたりけり」「からうじて盗み出でて」「いと暗きに来けり」という複文になっていて、それぞれをつなげる「を」「て」が接続助詞になっていると。
二つ目の「を」は「求婚し続けていたが」となりますが、逆接ではなく「なりますが」の「が」と同じ提示(だったかな?)の「が」ではないでしょうか。
[ 2012/08/06 05:21 ] [ 編集 ]

Re: 中川@やたナビ さん

> これは「年を経て呼ばひわたりける」が述部になっているからじゃないですか?

これは、その通りだと思います。が、その後の考え方には与しません。
何故なら、「からうじて盗み出でて」によって、前置する「を」を接続助詞だと判断しているからです。
続きは、その内書きます。…たぶん。

すべてのウソを取り捨てて行けば、後に残ったのが必ず真相でなければならない、のだよ、ワトソン君!
[ 2012/08/06 07:00 ] [ 編集 ]

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逆接の接続助詞「を」に関する断片語(2)

「逆接の接続助詞「を」に関する断片語(1)」の続き。 「年を経て呼ばひわたりけるを」の「を」が接続助詞であるとして、「年を経て呼ばひわたりける」と「からうじて盗み出で」と
[2012/08/09 23:24] URL HOSHINA HOUSE