『妖怪博士』

江戸川乱歩『妖怪博士』

妖怪博士 (少年探偵)

怪人二十面相』『少年探偵団』に続く「少年探偵」シリーズの第3作目。

前2作と比べると、美術品好きのシャレた怪盗・怪人二十面相と希代の名探偵・明智小五郎の知恵比べのイメージは薄くなっていて、サスペンス的な要素がむしろ大きい。
それを、「少年探偵」シリーズらしくないと見るか、巧みに趣向を変えた妙味と見るか、意見は別れるところかもしれないが、純粋に、手に汗握る面白い話なのには違いない。
読んだことのない人は、是非、実際に読んで確かめていただきたい。

本作は昭和13年(1938)に発表されたものだが、前2作同様、文章に古さを感じさせない。それが証拠に、小学2年の息子が、あっという間に読み終えてしまった。展開が巧みで、途中で本を置きにくいということもあるのだが、文章の良さにも、大きな要因があるだろう。
執筆年だけから、過去の遺物と決めつけてしまわずに、一読して見てはいかがかと思う。

…あ、二十面相って書いちゃいけなかったかな? もとい、蛭田博士…まあ、良いか。誰も二十面相が登場しないとは思わないだろうし…。
ところで、このシリーズ、大変気に入っているのだが、『怪人二十面相』の折にも書いたように、解説がどうにも気になる。
この巻には、こんな部分がある。

だが、それだけで終わったら二十面相らしくはありません。彼は天井に仕掛けてあった穴から逃げましたが、そこへあやしい少年に化けていた小林少年があらわれてつかまってしまいます。


この引用を読んで、「おいおい、断りもなくいきなりクライマックスのネタをバラすなんて、何てことしてくれるんだ!」と思われた人がいるかもしれないが、ご安心いただきたい。二十面相は天井に穴など仕掛けていないし、そんなところから計画なしに逃げて捕まるような不用意な真似もしない。
どの場面について書かれているかは判るけれども、本文とはまるで違っている。

せっかく鍾乳洞に少年探偵団員をさそいこみ、大コウモリに化けて、みんなの肝をひやしたのに、二十面相のあわれな最後でした。


前の引用に続く部分であるが、文章がまったく続いていない。
こんな文章を中島河太郎が書いたとは到底思い難いから、編集者が勝手に縮めたのかもしれないが、それにしてもひど過ぎる。
どうにも気になる。

なお、本文中に、N(日原)鍾乳洞にハイキングに出掛けた少年探偵団員が、「少年行進曲」を合唱する場面が出て来るのだが、「少年行進曲」という曲はないようだし、解説では、団員が合唱した曲を「愛国行進曲」としている。若干、「?」な感がある。
光文社文庫版江戸川乱歩全集『悪魔の紋章』所収の本文を見ると、この部分は「愛国行進曲」とあって、戦後の版で書き直された旨の注記がある。戦後になって、少年たちに軍歌を歌わせるわけにも行かないから書き換えたのだろう。
解説が、そういう経緯には触れずに、初出時の本文のまま「愛国行進曲」とだけ書いて済ませているのは、少々不親切だろう。もっとも、「愛国行進曲」とある本文を前提に書いたものがそのまま載せられてしまった、ということだろうから、解説者の責任ではないのだろうが…。

とは言え、そんなことは作品自体の価値とは何等関係がないから、それで本書を推す気持ちに、変わりがあるわけではない。
[ 2012/11/20 22:22 ] 本と言葉 子供の本 | コメント(0) | TB(0) |  TOP△

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