「腕をこまぬいで」

昨日…というかさっき取り上げた久生十蘭の「黒い手帳」に、こんな箇所があった。

寝台に腰をおろして、なすこともなく腕をこまぬいでいると、扉(ドア)を叩いて、びっくりした子供のような、一種不可解な顔をした男がはいってきた。(P115L11)


ふつう、「こまねいて」ということばだが、「こまぬく」という言い方もあるらしい…と思って調べてみると、本来が「こまぬく」だったようである。

物もいはでゐられたれば、この人も、いかにと思ひて向ひゐたるほどに、こまぬきて、すこしうつぶしたるやうにてゐられたり。(宇治拾遺物語、巻第5-9)


『日本国語大辞典』によれば、『観智院本類聚名義抄』に「拱 コマヌク」とある。
ただしこれは、「(両手を腹の上で組み合わせる中国の敬礼の動作から)腕を組む。腕組みをする」意。転じて、「なにもしないでみている。手出しをせずに傍観する」意になるが、それには用例が上げられていない。
なお、「こまねく」の項には、「『こまぬく(拱)』の変化した語」とだけ説明がされている。

もっとも、「両手を腹の上で組み合わせる中国の敬礼の動作」が何故「こまぬく」なのかは判らない。
コマ(高麗)の人の、腕を組み袖につらぬく所作から」という語源説があるらしいが、信用できるものではないだろう。

さらに、「こまぬいて」ではなく「こまぬいで」と濁るのも、何故だかは判らない。
だから、これといった結論はいつもの通りないのだけれども、「こまぬく」が本来だ、という当たり前のことすら知らなかったので、書き留めておいた。

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