「しばたたく」

ある事情で、芥川の「鼻」を読み返していて、今更気づいたこと。

鼻は――あの顋の下まで下つてゐた鼻は、殆嘘のやうに萎縮して、今は僅に上脣の上で意気地なく残喘を保つてゐる。所々まだらに赤くなつてゐるのは、恐らく踏まれた時の痕であらう。かうなれば、もう誰も哂ふものはないのにちがひない。――鏡の中にある内供の顔は、鏡の外にある内供の顔を見て、満足さうに眼をしばたゝいた


この部分で、作品の読みのキーになるのは「かうなれば、もう誰も哂ふものはないのにちがひない」の部分だと思うのだが、今回気になったのは、そこではなくて「しばたゝいた」である。
常識ある人には、何の疑問もないだろうけれども、僕は「しばたく」だと思っていたので、気になったのである。

『日本国語大辞典』を見ると、「しばたたく」が立項されていて、「屡叩」の字を宛てる。
「しばたく」は「しばたたく」の変化したものだということで、古くは「しばたたく」だったようである。
古く今昔物語集にも用例があり、『日葡辞書』にも「Xibatataqi,qu,aita」とあるらしい。鷗外の「青年」には、「しばだたく」とあるそうである。
なお、『新明解国語辞典』に、「しばしばまたたくの意」とあるけれども、これを語源とするのは、躊躇される。

「鼻」など数え切れないほどくり返し読んでいるのに、今更気づくなんて、どれだけイイカゲンに読んでいたんだか。

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