「びょうびょう」

内田百閒の『冥土』を読んでいたら、こんな箇所があった。

ただ遠くの方に、時時犬の吠える声が聞こえた。犬は吠えながら走つてゐるらしかつた。同じ声が、吠える度に、違つた方角で聞えた。そのうち、不意に宿屋の前に来て、べうべうと吠えると思つたら、すぐに止めた。さうして今度は又思ひもよらない遠くの方に、べうべうと吠える声が微かに聞えた。(烏)


犬の鳴き声を「べうべう(びょうびょう)」と表現するのも珍しいのではないかと思って『日本国語大辞典』を引いてみると、近世の用例もあったけれども、岡山市の方言として、「影絵の犬の鳴き声」とある。
「影絵の…」というのが何だか良く判らないが、百閒は岡山市の出身である。とすれば、これは百閒独特の言い方…かと思ったのだが、実はこんな例もあった。

そのぬぐつた太刀を、丁と鞘にをさめた時である。折から辻を曲つた彼は、行く手の月の中に、二十と云はず三十と云はず、群る犬の数を尽して、びやうびやうと吠えたてる声を聞いた。(芥川龍之介「偸盗」)


表記は違うが、これも音は「ビョービョー」である。例の如く、何度も読んだことのある用例をすっかり忘れていた。
メモしておかないと、また忘れてしまうこと請け合いだから、ここに書き止めておく。

山口仲美さんの本に『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社新書)っていう本があります。
『大鏡』にあるみたいですね。
[ 2013/12/01 01:46 ] [ 編集 ]

Re: 中川@やたナビ さん

いやあ、ちょっとやっちまった感がありますな。大鏡にあるとは…。
そういえば、この本、出た時に手に取ったものの買わなかった記憶が蘇ってきましたが、何でも読んどくもんですな。
[ 2013/12/01 23:36 ] [ 編集 ]

実は僕もこの本買ってないんです。
題名だけ覚えていて、版元を忘れてたんで、amazonで検索したら、内容紹介のところに「私が一番最初にひっかかったのは、平安時代の『大鏡』に出てくる犬の声です。「ひよ」って書いてある。・・・」とあったというだけの話で・・・。
[ 2013/12/04 02:41 ] [ 編集 ]

Re: 中川@やたナビ さん

何だ、あわてて買っちまったじゃないですか!!!
[ 2013/12/04 16:18 ] [ 編集 ]

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