オトフリート・プロイスラー『小さいおばけ』今を去ること7~8年、長女がまだ幼稚園の頃のこと、『 大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズと同じ作者の書いた話ということで、近くの子供図書館で借りて来た。 貸出し期限が来て返してしまったので、半分くらいまでしか読めなかった…僕が。子供は読んだので、継続して借りて来ることもなく、中途半端な気分だった。読みさした感触では、間違いなく面白そうだっただけに、なおさらである。 それで、いっそのこと買おうと思って書店に行ったのだが、図書館にあった大塚勇三訳の本は、絶版になっていた。 幸いなことに、はたさわゆうこによる新訳が出ていたのだが、プロイスラーと言えば大塚勇三である。それに、近年の訳は、どうにも締まらない文章でがっかりすることが少なくないから、買うかどうか少々迷った。が、新刊ではこれしか買うことができないのだから、仕方がない、諦めて買うことにした。 ところが、読んでみると、実に良い訳だった。子供に阿って無闇に易しくし過ぎることもなく、かと言って難しくもなく、テンポのある文章が、作品の面白さを引き立てている。 ドイツのフクロウヤマに暮らす小さいおばけ。夜中の12時から1時までの「おばけ時間」だけ起きていたのだが、ある日突然、昼の12時に目が覚めて昼おばけになってしまう。それが原因で起こる騒動の数々…! そんなある日、小さいおばけの目の前に、325年前に追い払ったスウェーデンの将軍トルステン・トルステンゾンが再び現われる。… 小さいおばけは、何故突然昼おばけになってしまったのか。そして無事元の夜おばけに戻れるのか…? 先日、家でゴロゴロしていた時、手の届くところにあった本書を再読したのだが、何度読んでも楽しい、児童文学の傑作である。
江戸川乱歩『少年探偵団』息子(小学2年)が何か本を欲しがったので、書店に行った。そこで見つけて買った本。 名探偵明智小五郎と怪人二十面相が対決する「少年探偵」シリーズの2冊目である。書棚には、第1冊目の『 怪人二十面相』も並んでいたのだが、家内がこちらを選んだ。 あえてこちらを選んだのは、子供がより興味を持ちそうだという判断…なのかと思ったのだが、実は、『少年探偵団』が『怪人二十面相』の続編だということに、気づいていなかっただけだった。それで、後日、『怪人二十面相』も買って来た。 このシリーズ、知らない人もないような有名なもので、ほかの叢書にも収められているが、これは何とも装丁が素敵である。文字が小さすぎもせず、大きすぎもせず、非常に読みやすい。乱歩の文章も、子供向けに書かれたものだから当然だとはいえ、少し古風な気はするかもしれないが、とても読みやすい。 改めて読んでみると、発表当時の少年たちが夢中になって読んだ訳が良く判る。 今の大人の目から見れば、トリックもそれほど難しいものではないから、二十面相がどうやって宝物を盗み出したか、どうやって警察の目を掻い潜って逃走したか、容易に推理することはできるだろう。それに、二十面相がいかに変装の名人だとしても、家の秘書や店の支配人に変装したのを見破れないなどというのは、いくら何でも設定に無理があるとも言える。が、それでもなおかつ、読んでいて楽しい。 ところでこの本、解説を尾崎秀樹が書いている。 むろん子供向けの本だから、大したことは書いていないのだが、興味深い点がないでもない。 推理小説の解説には不文律があって、けっして結末を書いてはいけないことになっている。 まず解説から読むという読者もいるので、解説で謎解きをしてしまうと、作品を読む楽しみが減殺されてしまう、というのがその理由である。が、尾崎は、この不文律を、物の見事に破っているのである。 この話には大きく二つのヤマがあるのだが、その両方とも、どのような結末になっているかを、いとも簡単に書いているのである。 そういう意味では、最悪の解説だとも言う人もいるだろう。が、僕はそうは思わない。 推理小説と雖も、その本質は小説である。 たとえば、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読もうとする人で、坂本龍馬が凶刃に斃れることを知らない人は、まずいないだろう。仮に知らなかったとしても、一度読んで龍馬の最期を知ってしまったら、もう二度と読めない、などということはない。面白い小説は、結末が判っていても、何度もくり返して読むものである。 それと同じで、推理小説にとって、推理が大きな要素であるのは間違いないが、結末が判ってしまったら興味の大半が減殺されてしまうとしたら、それは小説としては大して面白くないということなのである。 シャーロック・ホームズなど、結末を知った上で、何度もくり返し読んでいる人が、世界中に数限りなくいる。 結末が判っていて、それでも楽しめる…それが、名作というものである。
とはいえ、ここでこの本の結末を書いて、人に恨まれるようなことがあったら割に合わないから、長いものに捲かれることにする。 読む前に結末が判ったら楽しめないと思う人は、この解説を先に読まない方が良い。 なお、「尾崎秀樹」も「山田孝雄」のように、国文専攻なら読めなければモグリ。
小林快次『恐竜時代 I ―起源から巨大化へ』恐竜が絶滅してから6550万年も経つ現在、恐竜研究は日進月歩、新しい研究だったものが、次々と塗り替えられている状況であるらしい。 恐竜は爬虫類で冷血動物で、巨大化し過ぎて動きが鈍く、より優れた生物である哺乳類に取って変わられることになった…というような常識も今は昔、恐竜が極めて優れた生物だったことが、明らかにされつつある。 皮膚の色は判らない、と言われていたのが、科学的に立証できるようになって来ているし、羽毛の生えた恐竜がいたことも判っている。 そんな恐竜研究の最先端の成果が、中高生にも判るように易しく書かれている(ジュニア新書だから)…ことを期待して本書を手に取ったのだが、読み始めると少々出端を挫かれた。 最先端には違いないが、最先端の発見をした時の発掘現場の体験記といった様相でスタートする。 そういう意味では、期待外れと言えないこともないのだが、この発掘体験記が臨場感溢れていて実に面白い。読んでいて、今すぐにでもアラスカに飛んで発掘をしたいような気分にもなって来る。 もちろんのこと、読み進めて行けば、最新の恐竜研究の成果も書かれている。 三畳紀後期に恐竜が誕生してから、全大陸を制覇したジュラ紀前期。小型獣脚類が栄えていたジュラ紀中期、原始的なティラノサウルス類のプロケラトサウルスは2mほどの大きさだったという。ジュラ紀後期にはどんどん大型化し、竜脚類のアルゼンチノサウルスは全長35mで体重73トン。アフリカゾウが7mで8トンということを考えると、いかに巨大だったかがわかる。そして鳥類の出現へ…。鳥類の起源がいつか、始祖鳥は鳥なのか恐竜なのか、現在でも活発な研究が続けられているらしい。 …というところまでが、本「I」の内容。 僕が子供の頃には聞いたことのなかった恐竜が数多く登場する。最近子供と一緒に仕入れた知識で何とかカバーできていたこともあるにはあるのだけれども、研究の進歩の具合が実感できるのには違いない。本書には、2011年に発表された研究の成果まで、取り入れられている。 むろん僕は恐竜研究についてはずぶの素人だから、本書に書かれていることが現在の研究の中でどのように位置づけられるべきものなのかは判らない。 が、この本に書かれていることは、信用して良いのではないかと思う。 いいわけをするつもりはないが、研究とはこういうもので、その当時での最善をつくした結果を報告しているので、その後結果が変わることはままある。つまり、研究者でもまちがえることはしょっちゅうあるということだ。ただ、それは「まちがい」ではなく、「研究の進歩」と解釈してもらいたい。(「全大陸制覇へ」)
こういうことを正直に言える人の書いたものに、少なくとも嘘はないと思う。 研究者たる者、何も知らない若者ごとき、うまく誤魔化して自己正当化することはいくらでもできるはずである。昔の研究は間違いだ、俺の言うことを信じなさい! という具合にである。 それを、研究とはどういうものか、という観点から説明しているのは、非常に良心的である。 言い換えれば、この本に書かれていることも、いつか覆される時が来るかもしれないということで、逆に、相当の自信がなければ、そういうことを明言することはできない。 もう1例。 鳥類が、中生代の恐竜から進化したということは、現在ではひろく受け入れられている。もちろん、いくら受け入れられていても「仮説」であることにはちがいないが、化石記録を用いた古生物学や、発生学と言った生物学的な知見からも、鳥類が恐竜であるということが受け入れられている。 しかし、研究者の中には、この「仮説」を受け入れない人もいる。恐竜の研究も科学なので、それは自由である。(「小型獣脚類さかえる」)
読み終える間際になって奥付を見たら、著者は1971年生まれ。若い研究者である。道理で、文章にも勢いがある。 「II」が待ち遠しい限り。
先日、買った本。 『2012年改訂版 ペーパートレインBOOKジュニア2 JR東日本版』『E2系はやて』『E4系Maxなすの』『E231系湘南新宿ライン』など8種類の車両のペーパークラフト。それぞれ先頭車と中間車の2両分あり、連結もできる。 「ジュニア」だけあって、小学2年の息子にも簡単に作れる。が、その割にはリアルである。 さらに、本書には「ジオラマ台紙」が付属しており、カバーの裏の線路を繋げて大きなジオラマにすることができる。 駅、トンネル、信号や駅員さん、歩行者も付いていて、電車好きの子供なら、かなり楽しめる本(?)である。 これを、何故、どこで買ったのかは、機会があればその内書く。
…つもりなのだが、ここのところ、どうにも時間がない。
『ピタゴラ装置DVDブック(3)』改めて説明するまでもない、「ピタゴラ装置」本の最新刊。 『 ピタゴラ装置DVDブック1』『 ピタゴラ装置 DVDブック2』が出た後久しく続巻が出ずにいたのだが、第3弾が発売されていたことを最近になって知って購入した。 DVDの収録時間は過去最長、といっても30分ほど。それでこの値段なのは高いと思う方もいようかとは思うが、そこは考えようである。 確かに安くはないけれども、カラー写真がふんだんに入っている本が付いている(体裁としてはDVD付きの本だが、実態は逆だと言って良いだろう)から、このくらいは致し方がないだろう。 収録時間も、ほんの少し物足りない気持ちが残るくらいが、実際にはちょうど良い。 それに、数年前に娘のために買った1・2巻を、今では息子が何度もくり返し見ている(娘もたまに一緒に見ている)。それを考えたら、けっして高いとは思われない。 何度でも楽しめる映像(と本)である。
文:寮美千子・絵:佐竹美穂『黒い太陽のおはなし 日食の科学と神話』金環日食を1週間後に控えて、この書を紹介する。 とは言え、ここ最近のものではない。2009年、前回の皆既日食に合わせて、出版されたものである。 日食の仕組み…太陽と、月と、地球の関係…が、やさしく、判りやすく書かれている。もっとも、子供向けとは言え、説明している事柄自体が難しいから、中学生くらいにならないと、自力で読みこなすのは難しいかもしれない。 オマケ、というわけではないけれども、日食に関わる日本・アイヌ・インドの神話が書かれている。日本のはお馴染みのもの、アイヌのはちょっと怖く、インドのはかなり怖い。 今からでも、読んでみては如何か?
かこさとし『ピラミッド―その歴史と科学』家内が図書館で借りて来た本。 子供の本とは思えない、「その歴史と科学」などというサブタイトルが付いている。 ピラミッドを中心として、エジプトの歴史が描かれえいる。 以前紹介した『 地下鉄のできるまで』と同じ著者の本だけあって、実に細かく書き込まれている。 図書館に行けばいつでも借りられるのだが、あまりにも面白いので、買おうと思っている。
先日、千鳥ヶ淵の花見に行った帰りに、神保町の ブックハウスに立ち寄った。この店、元は北沢書店という歴史のある洋書店だったのだが、何時の頃からか、児童書の専門店になった。(建物は北沢ビルで、北沢書店は2階に現存する…らしいのだが、洋書には縁がなく、入ったことはない。) そこで、見つけた本。 佐々木マキ文・写真『まちにはいろんなかおがいて』面白そうだと思って手に取ってはみたのだが、「年中向き」では小学2年の息子にとって幼なすぎるかと思ってやめようとした…のだが、息子の、「年中向きでも、面白いものは面白い」という至極真っ当な主張を容れて、買うことにした。 内容は、タイトルと上の表紙画像を見れば判るだろう。街なかにある、いろいろなものを「顔」と見るのである。マンホールの蓋とか、鉄棒の金具とか、家とか…。 この本を見た後では、様々なものが「顔」に見えて来る。そして気が付くと、あちこちに「顔」を探している自分がいる。 この本が、「年中向き」であることは否定しないが、けっして「年中限定」に留まる本ではない。
佐藤さとる『佐藤さとる童話集』日本の長篇ファンタジー文学の嚆矢と称される『誰も知らない小さな国』の作者、佐藤さとるの短篇集。 「壁の中」は、子供向けのファンタジーというよりは、大人向けと言っても良い気がする。 「角ン童子」と「ぼくのおばけ」はどちらもお化けの話だが、怪談ではなく、ちょっと不思議な楽しい話。 山を削り谷を埋めて作られた団地に建つアパートの屋上と、削られた山の頂上が交錯する「この先ゆきどまり」は、特に秀逸である。 以前紹介した『 あまんきみこ童話集』と同じく、文庫本だから、字が小さく、ルビも少ない。小さい子供が苦労なく読めるものではないので、子供に読ませる場合には読み聞かせが必要。 だが、大人が読んでも、不思議な世界が十分に楽しめる本だと思う。
電車好きの子供に特にお勧めの1冊、その4。 加古里子『地下鉄のできるまで』これまでに幾つか、ちょっとマニアックな子供向けの鉄道の本を紹介して来たが、これはそれらに増してマニアックである。 この本の何が良いと言って、地下鉄の本なのに、電車がほとんど走らないことである。何しろ、「地下鉄のできるまで」の本だから、地下鉄の話ではなくて、地下鉄のトンネルを掘る話なのである。 地下鉄のトンネルを掘るのには、大きく分けて開削工法とシールド工法がある。 この本には、それぞれの工法の工事の進め方が詳細に描かれている。 開削工法では、工事が進むにつれ、作業する車両の種類が変化して行くのが面白い。 シールド工法では、シールド掘削機の組み立て方や各部の説明など、異常なまでに細かいことが描かれている。 また、そのほかの特殊な工法についての説明まである。 むろん、細かいところは飛ばして読んでも支障はないから、子供に読み聞かせる場合、着いて来られないようなら省略しても構わない。 地下鉄に乗っていると、トンネルの丸いところと四角いところがある。子供のみならず、僕も気になっていたのだが、これがトンネルを掘る工法の違いによるものらしいことを、この本によって知った。 地下鉄の線路に上り下りの坂があることには気づいていたが、それにも合理的な理由があった。 この著者の特徴だが、一見関係なさそうなところまで、細かく描き込まれているのも実に楽しい。たとえば、地下鉄工事起工式をやっている場所の隣のビルの屋上で体操をしている人がいたりすることなど。 子供はとても興味を持って喜んで読んでいるが、大人でも、地下鉄の電車をどこから入れるのか気になって寝られなくなっちゃうような人にはおススメめの本。 なお、余談だが、都営地下鉄新宿線の工事の最中に、現在の浜町駅(東京都中央区)の附近で、ナウマン象の化石が発掘された。これは、この本に書いてあることではないが…。
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